教育

大学院:地理学基礎問題研究 2024(前期・調整中)

『人間の領域性』を読み解く
Reading and understanding Human Territoriality

時間:毎週火曜日、13時15分から14時45分
教室:文学部増築棟2階 263室

担当: 山崎孝史(やまざきたかし)
連絡先: yamataka[at]omu.ac.jp
担当者ホームページ: https://polgeog.jp/

I 担当教員のプロフィール

1961年京都市生まれ。2004年コロラド大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。専門は政治地理学、特に地域社会軍事化、地政学、社会運動、アイデンティティ・ポリティクス。調査フィールドは沖縄。沖縄の基地所在市町村の変容、日米安全保障関係の変化と社会運動や投票行動との関わりを研究中。特技は合気道(五段)。

II 科目の主題

この科目は地理学という学問がどのような課題と方法を持つのかについて、19世紀初頭における近代地理学成立以来の発展過程を振り返りながら、考察することを目的とします。とりわけ1950年代以降の英語圏の地理学における諸スクールの研究分野と基本概念について詳細に検討します。特に今年度の地理学基礎問題研究は2022年2月に明石書店から刊行されたロバート・デヴィッド・サック著(山崎孝史監訳)『人間の領域性―空間を管理する戦略の理論と歴史』を用い、領域性の理論と用法について考察します。

III 達成目標

サック『人間の領域性』は人文地理学および政治地理学のネオ古典として以下のような価値を持っています(山﨑 2007: 90-91 )。

サックの所論は,画定された空間(領域)を権力やコントロールの基礎とする社会事象を説明するのに有効であり,領土や行政区画など政治領域の問題を具体的に考える上で不可欠である。Progress in Human Geography 誌は 2000 年に本書を古典として評価する記事を掲載しているが,コメンタリーを寄せたのは John Agnew と Anssi Paasi という政治地理学者であった。『人間の領域性』が公刊された1980年代は,英語圏における政治地理学の理論的展開において重要な時期である。ピーター・テイラーが1970年代のウォーラーステインの世界システム論に立脚した政治地理学の理論的視角を確立し,ロバート・ジョンストンらが選挙地理学研究を精緻化させ,そしてジョン・アグ ニューが構造化理論を政治地理学的な場所論に援用したのは,全て1980年代である。 『人間の領域性』は,これら著作と並んで1980年代以降の英語圏政治地理学の発展に対して非常に重要な理論的貢献をなした。その意味で『人間の領域性』は政治地理学を志す者にとっては必読書である。

本演習では、こうした「人間の領域性」の歴史展開と現代的意味を翻訳書の精読を通して理解することを目指します。

IV 授業内容・授業計画

関連文献と翻訳済みの各章を精読し、その内容について受講生間で討議する形で進めます。進行・内容については調整・修正することがあります。

週番号 月 日 テーマ 課題文献
1  4月9日  イントロダクション—授業の構成  
  4月16日  休講  
2 4月23日 『人間の領域性』日本語版への序文、はじめに  山﨑(2007)
3  5月7日 『人間の領域性』第1章 領域性の意味  
4  5月14日 『人間の領域性』第2章 領域性の理論  
5  5月21日 『人間の領域性』第3章 歴史的モデル(1)  
6  5月28日 『人間の領域性』第3章 歴史的モデル(2)  
7  6月4日 『人間の領域性』第4章 カトリック教会(1)  
8  6月11日 『人間の領域性』第4章 カトリック教会(2)  
9  6月18日 『人間の領域性』第5章 アメリカの領域的システム(1)  
10  6月25日 『人間の領域性』第5章 アメリカの領域的システム(2)  
11  7月2日 『人間の領域性』第6章 職場(1)  
12  7月9日 『人間の領域性』第6章 職場(2)  
13  7月16日 『人間の領域性』第7章、解題  山﨑(2016)
14  7月23日  日本における領域性の諸研究  準備中
15  7月30日  論評レポート提出  

V 評価方法

  1.  出席・参加:毎週の演習では課題文献の内容について討議します。必ず出席し、積極的に討議に参加してください。出席数が2/3以上の受講生を評価対象とします。
  2.  リーディング課題:各週の課題の簡単な要約とともに論点と疑問点などについてのコメントを添えて、演習の前日(月曜日)午後5時までに指定されたGoogleドキュメントにポストしてください。(評価配分60%)
  3. 実例レポート:領域性の理論を用いて、具体的な事例を分析した結果を4000字以上の学術論文の様式に沿ったレポートにして下さい。(評価配分40%)
  4. 評価:評点が全体の60%以上の受講生を合格とします。

VI 教材・課題・参考文献

本演習では、翻訳書を使いますので、生協等でご注文下さい。原著の購入は必要はありませんが、現在は2009年にデジタル復刻されたものが4,300円ほどで入手可能です。授業中に原著参照が必要な個所は、こちらで準備しますが、手元に置いておきたい方はご購入下さい。サックの領域性の理論については拙著『政治・空間・場所―「政治の地理学」に向けて[改訂版]』(ナカニシヤ出版、2013年)にも概説されていますので、お持ちの方はご参照ください。また、以下の文献は演習中に指定することがありますので、ダウンロードしてご利用ください。

山﨑孝史(2007)ロバート・D・サック『人間の領域性―その理論と歴史』 部分翻訳にあたって.空間・社会・地理思想11,pp. 90-91.

山﨑孝史(2016)境界、領域、「領土の罠」―概念の理解のために.地理61-6,pp. 88-96

VII その他

翻訳の疑問点をはじめとする演習の課題について相談したいことがある場合は、遠慮なく山崎までご連絡ください。本授業の内容に即した学部生向けの基幹教育科目「現代地理学入門」が同じ火曜日の2限に全学共通教育棟840室で開講されますので、本授業を理解する上で必要と思われる方は、教員にご一報の上、受講して下さい。その場合、期末レポートは免除します。