日時: | 2019年4月13日(土)午後1時30分~4時30分 | |
会場: | 大阪市立大学文化交流センター 大講義室 大阪市北区梅田1-2-2-600 大阪駅前第2ビル6階 https://www.osaka-cu.ac.jp/ja/about/university/access#umeda |
<テーマ>
境界をめぐる実践―ボーダーコントロールとボーダーツーリズム
<趣旨>
国際的な政治地理学研究において境界研究は重要かつ注目される分野である。しかしながら、日本の地理学においては、政治地理学がそうであるように、ほとんど研究されていない。本研究会では、日英の若手国際政治学者を招き、欧米における移民規制という境界管理強化の実践と日本の対馬をめぐるボーダーツーリズムの展開を対比しながら、境界研究の現代的視座について考察を深めたい。
<発表者と発表題目・要旨>
ヴィッキー・スクワイア(イギリス・ウォーリック大学)
Governing migration through death: Bordering practices in the EU and the US(死を通して移住を統治する―EUと米国における境界化の実践)
グローバル・ノースの諸国家によってすすめられる境界化の実践が、不安定な条件で移動している人びとの身を、死を与える暴力へとますます曝すようになっている。本報告では、このようなことが、いかにして行われているのかを考察する。報告者は、地中海と米国−メキシコ国境地域で行った広範囲にわたる現地調査を活用し、それぞれの文脈における境界化の実践に組み込まれた脱人間化と人種化の諸過程を強調するつもりである。また、人びとをさらに危険な移住の旅へと追いやることで、移民を統治するこんにちの実践が、どのように不安定性を生産しているのかを明らかにする。ここ数年の境界管理においては、砂漠や海のような境界の環境が、ますます大きな役割を担うようになってきたが、報告者はそのあり方に焦点を当てるつもりだ。またこのことと、移動する人びとの死の責任をグローバル・ノースの諸国家がたびたび負わずにいることとの間にある関連についても検討したい。そうすることで、人道主義の言説と実践が、それぞれの文脈における境界管理実践の内側にどのように吸収されてきたのかを示し、また EUと米国の境界における移民への連帯行動がますます犯罪化されていることを強調する。
花松泰倫(九州国際大学)
対馬・釜山ボーダーツーリズムの展開と境域社会の変容過程
韓国・釜山からわずか49.5kmに位置する国境の島・対馬は、古代から日本列島と大陸をつなぐ人と文化の「交流の最前線」として役割を担ってきた。その役割は現在でも脈々と受け継がれ、かつて対馬藩が主導したとされる交流の象徴であった朝鮮通信使はユネスコ世界記憶遺産への日韓共同申請が達成され、また近年では年間40万人を超える韓国人観光客がボーダーツーリズムとして対馬を訪れるようになった。さらには、日本人が対馬を経由して釜山に渡る国境観光の取り組みも行われるようになってきた。
国境離島ゆえに人口現象と少子高齢化が急速に進む現状の中で、島の未来と持続可能性を対岸の韓国との関係や付き合いのなかに見出し、「どん詰まり」からの脱却を狙う動きが存在している。客人として迎え入れるようになって15年あまり。島経済への好影響がようやく実感できるようになり、個人レベルでの日韓交流も盛んとなって、物理的な国境の敷居は低くなってきたように見える(脱境界化)。しかし他方で、「韓国人お断り」といった反韓感情も根強く、むしろ接触の機会が多くなればなるほど、対馬島民の韓国人観光客に対する心理的ボーダーは高くなっているようにも見える(再境界化)。ただいずれにせよ、「外国人」というより「隣人」としての意識の高まりがその背景にあるのは間違いない。
境域における海を隔てた隣国との付き合いは、国家間、国民間の関係に必ずしも収斂せず、境域独自のロジックにより変化する。脱境界化と再境界化が同時並行で進行し、それらが境域社会内部でのダイナミックな変化を引き起こす。日韓双方からのボーダーツーリズムの展開は今後も続き、島内境域社会の様態も大きな変化を見るであろう。本報告は、対馬と釜山の間で生じる人の動き、交流、軋轢、心理的壁の変容過程を整理することで、「砦」と「ゲートウェイ」を包含する新たな国境観を提示することを試みたい。
※英語による発表には和文資料が、質疑応答には簡単な通訳がつきます。本研究会の詳しい内容については政治地理研究部会ホームページ(http://polgeog.jp/studygroup/)をご覧ください。
<基金>
科学研究費補助金 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化B)「東シナ海島嶼をめぐるトランスボーダー地政学の構築」(研究課題番号:18KK0029、研究代表者:山崎孝史)
<連絡先>
山崎孝史(大阪市立大学)
E-mail: yamataka [at] lit.osaka-cu.ac.jp [at]は@に置き換えてください。